「シューマンを弾くと別人だね」と誉められました‥‥。 ソリスト桑田歩さんに聞く
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シューマンの協奏曲を選んだのはなぜでしょうか。 |
チェロのコンチェルトというと、ドヴォルザーク、ハイドン、エルガーといったところが有名ですけれど、ドヴォルザークは演奏を依頼されることが多くて、おととしは1年間に6回も演奏しました。今年も11月に1回演奏します。それでなければエルガーと指定されることが多い。小編成のオーケストラだったらハイドン。シューマンは演奏する機会が少ないんです。十数年前、新星日響(現在の東京フィル)に在籍していたころ、一度、このオーケストラと演奏したことがありますけれどね。でも大好きな曲で、とっても弾き応えがあるんです。オーケストラのメンバーとして伴奏したこともありますけれども、オーケストラのほうも、音符の数はあまり多くないのに、弾いていて充実感がある。 |
この曲を初めて聴いたのは? |
最初はレコードでした。カザルスのソロで、プラード音楽祭でのライヴでした。出だしのインパクトが強烈でしたね。短い全奏のあと、いきなり独奏チェロがテーマを弾き出す。あの冒頭は一度聴いたら忘れられません。その後、ヨーヨー・マの演奏をじかに聴いたりして、ますますいい曲だなと思うようになりました。 |
シューマンの曲が自分に合っていると思いますか。 |
中学校のときから、N響にいらした堀了介先生についていますが、あまり誉めてくださるかたではないのに、「きみ、シューマンうまいね」と言われたことがあります。そのほかヴァイオリンの先生からも、「シューマンを弾くと別人だね」とか「シューマンの陰鬱な感じを捉えているね」とか、誉められたことがあります。試験で弾いても、ドヴォルザークだと点数が低いのに、シューマンは評判がいいんです。高校生くらいからシューマンが得意というのはわりとめずらしいかもしれません。シューマンは、ただ情熱的に弾けばいいというものじゃない。もっとおとなの音楽というか、人間のいろいろな多面性が分って、分析できるような年齢にならないと弾けないのだと思います。でもぼくは、子どものころから、おとなの表情を見て、心の中で考えていることを想像するのが好きでした。まあ、いやなガキだったんですね。 |
シューマンの協奏曲の魅力について、もう少し細かく話していただけますか。 |
第1楽章は、ソナタ形式のような古典的な形式を大事にしています。けれども、そこから外へはみ出そうとする力、そこが魅力ですね。ロマンティックなテーマを古典的な方法で展開していくんですが、その枠から、一つ一つの音が、はずれたい、はみ出したいと思っている、それがエネルギーになっている。生きている音符のエネルギーがこの楽章に凝縮されています。 |
ところで、チェロを始めたのはなぜでしょうか。 |
ぼくの父はもともと音楽家になることが夢でしたけれど、戦争のために断念せざるを得なくなった。そうして、写真を撮ることや書くことが好きだったので、新聞記者になった。大阪出身でしたが、茨城県の地方新聞に就職して、当時は田舎の農村だった土浦に住むことになったんです。でもやはり音楽を仕事にしたくて、記者を辞め、同じ土浦で音楽教室を始めました。この間、ぼくがコンチェルトを弾いた土浦交響楽団は、30年前に父が作った弦楽合奏団に管楽器が加わってできたものなのです。父はヴァイオリンとピアノとチェロをひとりで教えていました。 |
N響ではどんな体験をなさいましたか。 |
N響は昔から大好きで、中学のときから定期演奏会に通っていました。ほかのオーケストラに在籍していたときも、テレビを見ながらボウイングを写したりもしました。いわばぼくにとっての規範でした。まさか自分が入るとは思ってもいませんでしたけどね。 |
最近出されたCD、ソロ小品集「ヴォカリーズ」について‥‥。 |
ぼくのような中堅の演奏家は、ソナタのCDを出すのがふつうでしょうね。小品集というのは、デビューしたての若手奏者にふさわしいかもしれません。でもぼくは、ソナタよりも小さな曲をいろいろ弾くほうが好きで、個性を出しやすいように思ったんです。若いときには先生がロシア人だったこともあって、ロシアものはわりと得意でしたけれど、その後、N響を含めて18年間のオーケストラでの経験を通じて、フランスものやラテンものなど、いろいろなスタイルの音楽を演奏できるようになりました。ファリャなどラテンものはデュトワから叩き込まれましたしね。そうした多様な音楽を弾き分けられるようになった成果を聴いていただけたらうれしいと思っています。 |
ブロカートフィルについて、どうお思いですか。 |
残念なのは、これまで低弦の分奏を見る機会はよくありましたけれど、全奏に接することが少なかったことです。でも昔と比べるとほんとにうまくなりました。いつだったか、シベリウスの第1番の合奏を初めて聞いたときには、ちょっともう帰ろうかと思ったくらいでしたけれどね。アマチュアオーケストラとは、ずいぶんたくさんお付き合いがあります。楽しむことを第一に考えているところもあって、それはそれでいいと思います。でもブロカートは、いい意味で一生懸命ですね。体育会系の学生オーケストラのような行き方はいちばん嫌いですけれど、そういうのではなくて、いい演奏をしたいという向上心が強く感じられます。ヴァイオリンの人が減ってしまったようですけれど、残念ですね。何とかメンバーを獲得してもらいたい。ヴァイオリンはオーケストラの花ですから。 |
(聞き手 鈴木 克巳) |
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