*モーツァルト 歌劇「魔笛」序曲(2008年9月21日 第23回定期演奏会プログラムより)

 彼にとって生涯最後の年となる1791年の夏、モーツァルト(1756−1791)はウィーン郊外で歌劇「魔笛」の作曲に没頭していました。次の子どもを身ごもっていた妻のコンスタンツェは、6歳になる上の子を連れて、温泉地バーデンへ保養に出かけていて留守です。
 「きみと一緒に子どもみたいに楽しく過ごしたことを考えると、毎日が退屈で悲しくてたまらないよ‥‥」
 さびしがりやのモーツァルトは、妻にあてて毎日、そんな手紙を書きながら、興行師シカネーダーの用意した小さなあずまやに籠って仕事をしていたのです。
 そんなある日、彼のもとを訪れたのが、灰色の服を着た不思議な男でした。注文主の名前を秘めたまま、大金と引き換えに「レクイエム」の作曲を求めるこの男の申し出を、気味悪がりながらも、モーツァルトは引き受けざるをえませんでした。しかも宮廷からの注文で、8月の末からは別のオペラ「皇帝ティートの慈悲」を大急ぎで仕上げなくてなりません。過労で身体の調子は悪くなる一方でした。でもそんな中で、初演日9月30日のわずか2日前に書き上げられた「魔笛」の音楽の、なんとうつくしいことか。
 「魔笛」というと、「魔王」とか「魔物」とかを連想して、日本語ではちょっと怖いイメージが湧いてきたりしがちですけれど、このオペラのタイトルの意味は「魔法の笛」、メルヘンのようなお話です。
 王子タミーノが、「娘を誘拐された」と嘆く夜の女王の訴えを聞いて、王女パミーナを救出に出かける、というのが発端。そのとき女王から渡されたのが、魔法の力を持つ横笛です。お供には、鳥の姿をした天衣無縫の自然児パパゲーノが付き従います。ところが誘拐魔ザラストロの本拠地に着いてみると、なんとしたことか、実は悪いのは夜の女王のほうだったことがわかるのです。この荒唐無稽とも思える筋の展開は、専門家によると、「自由、平等、友愛」を理想とする秘密結社フリーメースンの思想の反映したものなのだそうです。
 ちなみに、初演ではパパゲーノ役を興行師シカネーダー自身がつとめ、夜の女王をコンスタンツェの姉、ヨゼファが歌っています。
 序曲は、全楽器が一緒に強く奏する3つの和音で始まります。そして混沌とした闇の世界を表わしているようなアダージョの序奏が続きます。アレグロの主部に入ると、まず第2ヴァイオリンが第1主題を弾き、4小節後に第1ヴァイオリンが、その7小節後にヴィオラとチェロ、ファゴットが加わって、フーガのかたちで進んでゆきます。オーボエとフルートが半音階で対話するようにからみあう第2主題を経て、終止したあと、ふたたびアダージョに戻って、冒頭とよく似た和音が3回、鳴り響きます。次のアレグロでは、第1主題が、第1ヴァイオリン、チェロ、コントラバスとファゴットの順で展開します。
 「魔笛」は初演のときから聴衆の大喝采を受け、ウィーン郊外の小さな劇場で繰り返し上演されました。今も世界中のオペラハウスで、絶えることなく演目にあがっています。

(ヴィオラ 鈴木 克巳)

編成:Fl.2, Ob.2, Cl.2, Fg.2, Hr.2, Tp.2, Tb.3, Timp.1, Strings

 

 


 

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