*シューマン チェロ協奏曲 イ短調(2008年9月21日 第23回定期演奏会プログラムより)

 桑田先生が弾き振りをされた演奏会に伺った時のことです。開演の挨拶に立たれたN響ヴィオラ奏者の方から「彼の音楽には《熱狂》があります」とのご紹介がありました。《熱狂》‥‥確かに、普段の先生の淡々としたご様子からは伺えないのですが、先生の演奏には何か心が揺さぶられるものを感じます。いつかは‥‥と思っていた共演が今日かないました。しかも先生お得意のシューマンで。オーケストラも先生の《熱狂》とともに熱い音楽を奏でたいと思います。
 ロベルト・シューマン(1810-1856)の「チェロ協奏曲」は、彼がデュッセルドルフ市の音楽監督に就任して間もないころ、精神的にも比較的安定していた1850年10月中旬から11月1日までに作曲されたといわれます。シューマン自身、チェロの音に魅力を感じていたこともあり、全曲にわたって美しいロマン的な抒情をたたえ、独自の夢想的な面もみせています。シューマンの妻クララが記した「ロマン性、躍動感、清新な感じ、ユーモア、チェロと管弦楽のきわめて興味深い織り合わせが非常に魅力」という言葉は、この作品の特徴を言い当てているといえるでしょう。
 当時、チェロ協奏曲という分野は一般的ではなく、また独奏チェロに高度な技巧を要求されることもあって、この曲がシューマンの存命中に演奏された記録は残っていません。曲は3つの楽章からできていますが、各楽章間に明瞭な切れ目をおかず、全体に有機的な統一をもたせている点で、単一楽章の曲のようにも思えます。

第1楽章 Nicht zu schnell (あまり速すぎずに)
 ひそやかに3小節の短い冒頭音形をオーケストラが演奏して曲は始まります。この音形は曲全体の核となるモチーフです。続いて独奏チェロが同じモチーフによる情感豊かな第1主題を演奏し、オーケストラの方もオクターブの跳躍を含む音形で高揚していきます。次に独奏チェロが低音域から湧きあがるように第2主題を提示します。旋律構造が明るくのびやかで、独奏チェロは高音域と低音域を自由に行き来し、フレーズひとつひとつにそれぞれの色や表情をつくりだします。オーケストラは、独奏チェロの伴奏に徹しますが、時折ソロと一緒に歌ったり、対話したりします。展開部では、オーケストラによる激しい三連音符と穏やかな独奏チェロの声部が共存し、次第に独奏チェロが三連音符に飲み込まれた後、再び晴れやかに旋律が現れてきます。終結部、オーケストラは情熱的に盛り上がりますが、核モチーフからなる管楽器と独奏チェロによる移行部分に導かれ、静かに第2楽章へと移ります。
第2楽章 Langsam (ゆるやかに)
 シューマン好みといわれる間奏曲風な楽章です。独奏チェロが穏やかに、憧れに満ちたメロディを歌います。静かですが、祈るようなあふれる思いを湛えた音楽で、中間部の重音奏法ではオルガンのような響きを奏でます。独奏チェロとオーケストラのチェロのソロとの二重奏が続いた後、フルートとクラリネットに第1楽章の第1主題が現れ、独奏チェロもそれに呼応します。一度、第2楽章のやすらかな世界を振り返りますが、徐々にテンポを速め、抗えない激情に翻弄されるかのように第3楽章へと流れ込みます。
第3楽章 Sehr lebhaft (きわめて生き生きと)
 決然と第1楽章と関連のある軽快な主題があらわれます。オーケストラと独奏チェロの対話が続いたあと、独奏チェロが音階を駆け上がるようにして華麗な見せ場をつくり、熱を帯びていきます。展開部では、独奏チェロとオーケストラが緊密なやりとりを繰り広げ、再現部で独奏チェロがいっそう激しく燃え上がります。

 カデンツァでは、チェロの幅広い音域を生かして、難度の高い技巧が駆使されますが、本日は、あまり演奏されることのないカデンツァを演奏していただけるとのことで、私たちオーケストラも楽しみです。
 そして終結部、テンポを速めて独奏チェロが跳躍を繰り返し、オーケストラの伴奏を伴って、力強く華やかに曲を閉じます。

(チェロ 渡邉 順子)

編成:Fl.2, Ob.2, Cl.2, Fg.2, Hr.2, Tp.2, Timp.1, Strings

 

 


 

このサイトはフレームで構成されております。画面左端にメニューが表示されない場合は、下記リンクよりTopページへお越しください。
ブロカートフィルハーモニー管弦楽団 http://www.brokat.jp/