*フォーレ 組曲「ペレアスとメリザンド」作品80(2009年9月21日 第22回定期演奏会プログラム 創立20周年記念コンサート2より)

 オープニングのウォルトンを、レッドカーペットの上で飲むシャンパンに例えるならば、この曲は和室でいただく抹茶といった趣きである。冒頭の弦楽合奏を聴くだけでも雰囲気がお分かりになると思う。「ペレアスとメリザンド」は、ベルギーの劇作家モーリス・メーテルリンク(1862−1949)が書いた戯曲であり、王子ゴローと異父兄弟ペレアス、そしてゴローの妃メリザンドの三角関係を描いた悲恋の物語である。フォーレ(1845−1924)のほかに、ドビュッシー、シベリウス、シェーンベルクといった名だたる作曲家がこの戯曲をもとに音楽を書いている。
 話のあらすじは、以下のとおり。時はいつとも知れない架空のアルモンド王国。王の孫ゴローは、森の中で乙女メリザンドに出会う。かねてから結婚を勧められていたゴローは、メリザンドと結婚するため城に戻る。メリザンドはゴローと結婚するが、ゴローの異父弟ペレアスと次第に惹かれあい、互いに恋に落ちてしまう。二人が惹かれあっていることを知ったゴローは、二人を咎めるようになる。結ばれない運命のもと数か月が経ち、ペレアスは旅に出ることを決心する。出発前の最後の夜、ペレアスとメリザンドは愛を告白し抱擁し合う。そこへゴローが現れ、二人を剣で刺してしまう。ゴローによって負わされた傷で、瀕死でベッドに横たわったメリザンドは女の子を授かり、生まれた子供に手を伸ばしながら、静かに息を引き取る。
 劇付随音楽の全曲は19曲の小品からなるが、フォーレ自身が抜粋した管弦楽組曲が今日よく演奏される。全体的に内省的な響きが特徴で、8ミリフィルムを映写機で見るように、遠い過去を懐かしむようだ。

「前奏曲」は、劇付随音楽の一番初めに演奏される。弦楽によってメリザンドを表す主題が静謐な表情で歌われる。後半にゴローを暗示する角笛の響きがホルンによって奏される。漂う雲が、次第に形を変えていくような美しい曲。
「糸を紡ぐ女」では、古城の一室で糸を紡いでいるメリザンドが描かれている。するすると回る糸車の様子を弦楽器が奏し、オーボエが可憐な歌をうたう。
「シシリエンヌ」は、ペレアスとメリザンドが泉のほとりで戯れる場面の前奏曲である。ハープの分散和音の上で、フルートが美しいメロディーを奏する。フォーレのシシリエンヌとして名高く、独立して演奏されることも多い。
「メリザンドの死」は、メリザンドの死を暗示させる葬送行進曲。複付点のリズムは、足を引きずりながら墓地までの道を黙々と歩ているかのようだ。

「日本にはたゆたうという美しい言葉があります」。吉川先生が合奏中におっしゃったこの言葉が何よりも曲の雰囲気を物語っていると思う。

たゆたう [ 揺蕩う ](1)物がゆらゆら動いて定まらない。ただよう。(2)心が動揺する。ためらう。
夏が終わり、寂しさを感じるこの季節に、何かを感じ取っていただける演奏にしたい。

(クラリネット 吉岡 克英)

編成:Fl.2, Ob.2, Cl.2, Fg.2, Hr.4, Tp.2, Timp.1, Hp.2, Strings

 

 


 

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