*シベリウス  交響詩 「エン・サガ」 作品9 (2017年2月19日 第38回定期演奏会プログラムより)

 交響詩「エン・サガ」は、1892年12月に完成され、1893年2月に初演されたシベリウス(1865-1957)が27歳のときの作品です。タイトルの「エン・サガ」について、サガとは、もともと古代アイスランドの伝承文学を指しますが、スウェーデン語においては、伝説一般を指す用語としても使われています。シベリウスは、スウェーデン語系フィンランド人。現在もフィンランドの公用語は、フィンランド語とスウェーデン語の2言語が使用されています。「エン・サガ」のEnは、英語でいうaに相当し、この曲名は、日本語で「ある伝説」と訳されることもあります。シベリウス自身は、この曲に具体的な説明を残さず、伝説的なものを表現したとか、心の状態を表現した等の解釈がありますが、はっきりしたことはわかっていません。
 この曲を作曲したのと同じ年、シベリウスはフィンランド人の伝承文学「カレワラ」に基づいた「クレルヴォ交響曲」を完成させ、祖国での初演が大成功をおさめています。しかし、彼自身は、曲の出来を良しとせず、亡くなるまで再演しませんでした。同年に、新婚旅行でフィンランドの民族音楽の宝庫といわれるカレリア地方を訪れて、滞在中に多くの民族音楽に触れ、「クレルヴォ交響曲」での手法は、真のフィンランド民族の表現に至っていないと悟ったともいわれています。一方で当時のフィンランドは、ロシア帝国の支配下にあり、ロシアによる自治権の制限等、圧制が強まるなかで民族運動が高まっている時期であり、聴衆側には、音楽も含め、民族的なものを求めている情勢がありました。そんな中で作曲されたこの「エン・サガ」は、若いシベリウスの不安や自信の混ざり合った感情、民族への誇りや社会情勢等への思いが、漠然となって「伝説」として表現されたのかも、と思います。
 曲は、風のささやきのような弦楽器を背景に、木管楽器が入り、やがてファゴットが物語に導くような主題を演奏し始めます。主題を少しずつ変えながら、ホルンや弦楽器によって曲が進み、やがて金管楽器による堂々とした旋律が演奏され、いったんテンポを落として、4人のヴァイオリンとホルンの幻想的な対話がなされたのち、オーケストラ全体で広大なクライマックスに達します。最後は、クラリネットの長いソロのあと、チェロによって物語が静かに閉じられます。

(ファゴット 吉田 峰子)

編成:フルート 2(ピッコロ持ち替え 1)、オーボエ 2、クラリネット 2、ファゴット 2、ホルン 4、トランペット 3、トロンボーン 3、テューバ 1、バスドラム 1、トライアングル 1、シンバル 1、弦楽5部。

 

 


 

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