*ブラームス 交響曲第3番 ヘ長調 作品90 (2018年9月17日 第41回定期演奏会プログラムより)

 ヨハネス・ブラームス(1833–1897)は、北ドイツのハンブルクに生まれました。父親は、ダンスホールでヴァイオリンを弾き、町の楽隊でラッパを吹く、貧しい音楽家でした。モーツァルトやメンデルスゾーンのような恵まれた家庭環境とはだいぶ違います。そう、ベートーヴェンの生い立ちと似かよっているかもしれません。10歳になるかならないうちから、家計を助けるため、ブラームス自身も居酒屋やダンスホールでピアノを弾いていました。
 1853年9月、20歳の時に大きな転機が訪れます。ロベルト・シューマンに絶讃されたのです。「新しい道」と題された評論にいわく、「その風貌は、彼が選ばれた人であることを示していました。ピアノに向かうと、彼は不思議な世界を開いてくれました。その演奏は天才的で、ある時は悲しみに沈み、またある時は歓びに酔いしれるように、ピアノをあたかもオーケストラのように弾きこなしたのです」。
 ブラームスとシューマン、そして妻クララとの親密な交流が始まります。ところが、シューマンは間もなく深く精神を病んで、あくる年にはライン川に身を投げて自殺をはかり、1856年には亡くなってしまいます。ブラームスへの讃辞は、シューマンの発表した最後の文章となりました。その後もブラームスはシューマンの家族に対して、献身的に尽くしました。14歳年上のクララのことを、ブラームスは、一時は手紙の中で「きみ」と呼んだりもしています。けれども、二人は生涯、結婚することはありませんでした。
 1862年以降、ウイーンに移り住んだブラームスは、「ピアノ五重奏曲」「弦楽四重奏曲第1番」「ドイツ・レクイエム」「アルト・ラプソディ」「ハイドンの主題による変奏曲」などの傑作を次々に発表して、名声を高めます。
 そんなブラームスにとって、交響曲だけは特別な存在でした。彼の言葉です。「ぼくはベートーヴェンを心から尊敬しています。交響曲については、ベートーヴェンがすべてのことをし尽くしました。自分の背後に立つベートーヴェンを意識し、その作品を聴きながら、自分でも交響曲を書くことは、並大抵のことではありません」。
 1855年、22歳のときに、初めて交響曲を書こうと思い立ったものの、第1番が完成したのは、20年以上ものちの1877年。ブラームスは43歳になっていました。ところがその年の夏、彼はすぐに交響曲第2番に着手し、わずか2か月で書き上げてしまいます。オーストリア南部、アルプスの麓にあるペルチャッハという美しい村に滞在していたときのことです。彼は手紙に書きました。「この村では、旋律が次から次へと生まれてきます。散歩のとき、ぼくはそれを踏みつぶさないように気をつけなくてはいけません」。
 それから6年後の1883年の春、ブラームスは、ヘルミーネ・シュピースという27歳のアルト歌手と出会います。温かくて豊かな声を持っていて、微笑みの魅力的な女性でした。23歳という年の差をものともせず、ブラームスは彼女に夢中になります。そして彼女のためにたくさんの歌曲を書きました。この1883年の夏休みを、ブラームスはライン川のほとりの温泉地ヴィスバーデンで過ごします。彼女の住んでいる街でした。そこで作曲されたのが、きょうお聴きいただく交響曲第3番なのです。友人たちは、ブラームスがヘルミーネと結婚するものと思い込んでいました。けれども結局ヘルミーネとの恋は実らず、彼女は別の男のもとへ嫁ぎ、それから間もなく亡くなってしまいます。
 ちなみに、この1833年の2月、ワーグナーが亡くなりました。その埋葬式に捧げるため、ブラームスは月桂冠をバイロイトに送ったのだそうです。その支持者たちは、ブラームス派とワーグナー派に分かれていがみ合っていましたけれど、本人同士はお互いに尊敬しあっていたということなのでしょう。

第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ 活気をもって快速に
 管楽器すべての合奏で曲は始まり、フルートとオーボエが、ファ−ラ♭−ファという上行音形の基本動機を奏でます。ラにフラットがついているため、短調の響きを持っています。続けてヴァイオリンが、高音域から対照的な下行音形で、ファード、ラーソ、ファードと入ってきて、熱っぽく第1主題を歌い上げます。おだやかな管と弦との対話のあと、クラリネットにやさしい歌のような第2主題があらわれます。
第2楽章 アンダンテ 歩く速さで
 クラリネットとファゴット2本ずつの柔らかいアンサンブルが、素朴なテーマを示します。ヴィオラが第1楽章の基本動機を思い出させたあと、ヴァイオリンが加わって最初のテーマの変奏が繰り広げられます。中間部でもクラリネットとファゴットがまず寂しげな主題を奏し、ヴァイオリンに受け継がれます。
第3楽章 ポコ・アレグレット やや快速に
 かつてフランソワーズ・サガンの小説「ブラームスはお好き」を原作とする映画「さよならをもう一度」の中で使われていたのを、憶えているかたがいらっしゃるかもしれません。憂いのこもった甘やかなチェロのメロディが印象的です。
第4楽章 アレグロ〜ウン・ポコ・ソステヌート 快速に〜やや音を保って
 弦楽器とファゴットがユニゾンで活気を帯びた第1主題を静かに奏でたあと、突然、金管楽器と打楽器が爆発して、激しい渦に巻き込まれます。それがおさまると、チェロとホルンが明るい第2主題を奏でます。そして最後は、第1楽章の第1主題を回想して、静かに曲を終わります。

(ヴィオラ 鈴木 克巳)

編成:フルート 2、オーボエ 2、クラリネット 2、ファゴット 2、コントラファゴット 1、ホルン 4、トランペット 2、トロンボーン 3、ティンパニ 1、弦楽5部。

 

 


 

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ブロカートフィルハーモニー管弦楽団 http://www.brokat.jp/